ヨコズキゲーム’

ゲームの事しか書いてない らじてんのブログ。

「十三機兵防衛圏」感想

 「アウターワールド」をクリアし「ペルソナ5R」をクリアし、娘に「スライム!」と要求されて「ドラクエビルダーズ2」を遊んだりしていました。

 それはともかく今日は「十三機兵防衛圏」の感想。

 ※ほとんどネタバレなしでの感想。最後にネタバレありでの書き散らしあり。

 

 

十三機兵防衛圏

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 「オーディンスフィア」「ドラゴンズクラウン」「朧村正」など、情念凄まじい絵と美術によるアクションゲームをリリースしてきた職人集団ヴァニラウェアによる最新作。情報公開から、いまいち内容がわからないまま数年。今年3月にプロローグ編と称したゲーム序盤部分が先行販売されても全貌が把握できず、いっそ発売まで楽しみにしておこうと思っていた。

 面白いのか、自分に合っているのか、何もわからないまま。最悪、ヴァニラウェアの絵とベイシスケイプの音楽だけは間違いないだろう、ということでプレイし始めたが、想像を超えた素晴らしい出来だった。

 

 

3つの異なるパート

 本作は追想編、究明編、崩壊編の3つのパートから構成される。

 追想編はアドベンチャー、究明編はTIPS集+リプレイ機能、崩壊編はバトル。

 「追想編を進めるためには崩壊編を一定のステージまでクリアする必要がある」というようにパートをまたいだアンロック要素があるため、どれか一つのパートだけを集中して進めることはできないが、かなり緩めの制限となっている。一本道ではあるものの、どのようにゲームを進めていくかの自由度は高め。

 

 

追想

 追想編では、ヴァニラウェアによる情念ほとばしるキャラクターと背景を楽しみつつ、寸劇を眺めることになる。とにかく絵がいい。動きがいい。ゲーム開始から数秒でもうやばい。機兵起動がかっこうよすぎて泣ける。旧校舎の窓のすぐそばに舞う埃が美しい。

 アクションゲームとして制作されたこれまでのヴァニラウェア作品とは違い、アドベンチャーゲームとして制作された本作は、キャラの動きがよりリッチで異常に豪華。デフォルメ的な強調が利いていた「ドラゴンズクラウン」に比べると、かなり抑制の効いた等身大寄りのキャラデザインとなっている(一部、相変わらずすごいキャラいるけど。森村とか)……割に、多くのキャラにおいて、なんらかのフェチを感じる。キャラデザからキャラの挙動から、全身の性癖を連打されることとなる。なっちゃんのブルマ姿を描きたいから1980年代に設定した説を唱えそうになる。結果、自分が何がフェチなのかわからなくなって、気づけばリーゼントヤンキーを見ても興奮を覚える身体にされてしまった。すごい。なお、フェチを感じさせる点において、男女の区別は全くない。

 横スクロールアクションのようにキャラを移動させる要素はあるものの、ゲームプレイ自体は、ほぼノベルゲームに近い。しかし、ノベルゲームと比べると、1シーン辺りのカロリーが桁違いにすごい。ベルトスクロールライクな画面構成はまるで演劇の舞台のようで、画面の手前と奥で同時にキャラが動き会話するシーンなどは、テキストの表示のさせ方、サウンドボリュームのコントロールが完璧。すごさに眩暈がする。また、キャラクターとの会話で選択肢が増えていく「クラウドシンク」という仕組みは、古典的なコマンド式ADVを今様に洗練させつつ、プレイヤーが介入する要素を増やし、さらにキャラクタの内面を掘り下げる役割まで兼ねており、クラウドシンクを展開した際のビジュアルも伴って美しさを感じる。

 徐々に増え、最終的に13人まで増える主人公たちの物語は断片で提示される。アンロック要素によってある程度進行が破綻しない制御がされているものの、どのキャラクターから進めていくのかは、プレイヤーの裁量が強い。どの順番で追想を見たかによって、物語への理解や印象には若干の差が出来そう。

 一本道の物語ではあるが、横スクロールアクションの画面デザインと操作体系、フローチャート状の進行表、プレイヤーの裁量権が大きい閲覧順序などが「ゲームだからこそ遊べる群像演劇」という印象を作っており、好みにドストライクだった。こんなリッチで異常なゲーム、二度と出てこないんじゃないだろうか*1

 

 

究明編

 追想編をプレイしていると、時系列や因果関係などで混乱しそうになる場面が時々ある。そんな時、情報の整理に役立つのが究明編。

 「単なるTIPS集をわざわざ独立したパートみたいに言って大げさな」と思うかも知れないが、追想編で展開される物語は相当に混み入っており、難しい用語も頻出する。そんなとき、情報を整理し、理解をより深めるのに、究明編は十二分な機能を備えている。

 究明編では追想編で見た全イベントの断片を、イベントアーカイブでリプレイ可能な他、追想編では描写されなかった(が、おそらくどこかの時点でキャラクター間でも共有されている)情報の詳細が、ミステリーアーカイブで閲覧できる。

 ごちゃまぜで見ることになる追想編とは違い、イベントアーカイブが時系列で並んでいるのはありがたい。時系列でイベントを確認すると、追想編で見た時よりキャラの感情の変遷に寄り添って見れるようになっているのもポイント。

 ミステリーアーカイブについてはTIPSのようなものだが、その物量と充実度合いは、設定資料集が同梱されているレベル*2例えば、キャラクターが買い食いする食べ物まで専用のイラスト付きで解説されているのだ。すごい(語彙が消失する)。

 

 

崩壊編

 バトルパートにあたる崩壊編はリアルタイムストラテジーのようなゲームプレイがメインとなる。

 敵味方が記号化された索敵レーダーマップのような画面は少々とっつき悪いが、プレイしてみるとシンプルでかなり遊びやすい。

 エフェクト・サウンドが非常に良い仕事をしており、大量の敵を撃破した時や、巨大な敵を打破した時は快感がある。特に格闘タイプの打撃はすごくいい。

 難易度もやさしめ設計。イージー難易度にしてもトロフィーになんら影響はない(スコアが稼げないので機兵の強化がはかどらないが)。クリアするだけなら、無理押しも結構効くようになっている。どちらかといえば、ステージごとに設定されたミッション目標を達成しつつ、ミッション評価でSを出すことに重きを置かれている。条件を満たすと究明編で確認できる項目が増える。ミワちゃんや食べ物のミステリアーカイブ見たさに頑張れというゲームからのメッセージだ。

 中盤以降のステージにてミッション目標と評価を達成しようとすると、ガーディアンによる敵の引き付け、格闘タイプでの巨大敵殲滅、飛行タイプを使ってのピンポイント接近戦など、適度な工夫が必要になってくる。それにしても、ガチガチに最適行動を行わなければならないというより、ある程度の工夫をすれば良いという程度で、難易度と達成感のバランスが心地よかった。

 個人的にはガーディアンで敵を引き付けつつ、第2世代と第1世代をまとめて敵陣に突っ込ませ、第3世代の長距離ミサイルで露払い、第2世代のバリアエミッターで無敵になりながら第1・2世代で交互に近接を叩き込み、巨大敵を殲滅するというパターンが最高に格好よくて好き。

 物語とも密接に連動し、物語が進行するほど増える敵を、なるべく最小限の被害でさばいていくのは高揚感がある。一見地味なれど、シンプルでしっかりとした快感があり、ロボット物好きにたまらない最高の戦闘パートに仕上がっている。

 

 

最高の物語

 十三人の主人公による群像劇は最高だった。

 主な舞台となる1980年代のノスタルジー要素と、大量のSF要素が山盛りてんこもり。「レイジングループ」はミステリーと近年のノベルゲーム要素全部盛りみたいな内容だったが、十三機兵も負けず劣らずのSF盛りっぷりだ。

 物語は、主人公の一人、冬坂が機兵に乗るところから始まる。日常が崩壊し「敵」との闘いが始まるところからスタートし、そこに至るまでの過程が描かれていくのだが、全く一筋縄ではいかない。SFは当然として、スリラーあり、恋愛物あり、UFOあり、不良あり、タイムリープあり、探偵物あり、戦記物あり、記憶喪失あり、焼きそばパンありのごった煮具合。

 「少年少女たちが如何にして機兵に乗り、戦いに身を投じることになるのか?というドラマを描く」と聞いて想像する斜め上の物語が展開し、何度も度肝を抜かれた。

 正直なところ、要素ごとに見ると既視感のあるネタは多い。元ネタを隠しもしない映画関係のオマージュは別として、物語の骨子にかかわる様々な設定は色んなSF小説の影響を感じる。しかし、それがここまで多層構造をとって詰め込まれているのは、それだけで感動してしまう。飛び道具のような突飛でイカれた設定こそないが、この物量と密度の物語を破綻なく、しかも群像劇としてまとめていること自体が飛び道具だ。感服する。

 少年少女のジュブナイル物としても非常に鮮やかな着地を決めている。同じキャラクターでも、主人公が違えば見え方が変わる。多角的にキャラを描いていることで、各人の心の成長も素直に感じることが出来た。

 謎の敵が登場し、少年少女がメカで戦うという設定から、アンハッピーエンドな予感を勝手に感じていたのだが、最後は見事なハッピーエンドに辿り着いてくれた。

 

 こんなブツを作り上げてくれてありがとうヴァニラウェア。死人が出てないか心配だよヴァニラウェア

 

 

 

 

 

 ※※ここからは、ネタバレあり。

 

 とりあえず、最後の戦いから始まってカットバックって構造がもうずるい。FF15もそうだけどさ。しかも、追想編を終わらせていく過程は、十三人分、次々と最終決戦へと向かっていくよう話が収束してくわけで。最終決戦自体より、最終決戦に向けてボルテージが高まっていく、その過程自体が一番最高みたいなとこあるじゃないですか。それが13人分(いや、正確には11人分くらいなんだけど)連続で来る。ずるい。インフレが過ぎる。逆に、そこがピークで、崩壊編終盤のバトルは少しおとなしい感じがあったけど。もうしょうがないわ。しっぽ、超好き。登場人物、どのキャラもすごくよかったな。マジでどうしようもないクズと思わせて井田まで味あるんだもの。クズはクズだけど憎めないクズ。ちょっと惜しいと思うのは東雲先輩かな。ちょっと最終戦までの覚悟の決まり方が見えなかったんだよなぁ。イベントアーカイブ見直したらわかるかしら。

 世界の真実はともかく、それに至りつつ、機兵やら各人の状況を成り立たせるための枝葉の作りこみと混み入りっぷりが堪らなかった。剥いても剥いても新しい謎が現れて、超巨大高密度たまねぎでも相手にしてる気分になったよ。

 エンディングは、ちょっとロンパ3やザンキゼロを思い出した。あのゲームもいいゲームだったな。十三機兵はエンディングのその後まで踏み込んで描き切ってるとこが、最近見ない感じで新鮮だった。ご想像にお任せします、とか、謎は謎のままみたいな要素がほぼない。クリア後のおまけステージなんか「まだこのゲームを遊んでいたい」という声に応えつつ、そういう気持ちを成仏させるための残心かな?と思っちゃったよ。で、全部綺麗に片付け過ぎでは?と思ったとこにあのラスト、エンドロール後のイベントだよ。あのイベント見た瞬間「うわー!」って言っちゃったよ。わかってるぅ!って。アレでSFとしての強度(漠然とした比喩)が上がったというか。完璧じゃないかよ、このゲーム。

 しかし、SF小説ではよくあることだけど、生き残った主人公たちがクローンであるとか、AIに心は宿るか?みたいなとこはスポーンとすっ飛ばしてるのが気持ちよかったな。そっちじゃなくて、そのあとまで含めた種単位の通過儀礼をやりたかったんだろう。幼年期の終わり。クリアした直後、もうこれがエヴァということでいいんじゃ?まで思った。ちょっと自分でも何言ってるかわかんないけど。とにかく最高のゲームでした。

 

 

今日は以上。

*1: という予想を覆してほしいと思いながら

*2: そういえば取扱説明書もゲーム本編に含まれている